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性暴力事件と裁判員制度:「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」が1年目の評価提言を発表

2010/05/25

性暴力の根絶をめざして活動する「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」が、裁判員制度導入から1年目にあたり、裁判員制度における性犯罪事件の審理について、分析と提言をまとめました。

性暴力事件の裁判員裁判1年目のまとめ(要約)
 性暴力事件が裁判員制度の対象となったことには、いくつかの肯定的な側面もみられる。しかし一方で、被害者のプライバシー保護や自己決定権の保障において大きな課題がある。また、裁判官裁判においても見られていた性犯罪事件審理にかかわる問題があらためて浮き彫りになった。

裁判員の選任について  検察は、被害者と生活圏の重なる候補者を不選任請求しているが、この方法によるプライバシー保護には限界があり、同じ地域の候補者を一括除外するなど制度の見直しが必要と思われる。
 裁判員候補者への質問表で、過去の被害経験について尋ねることは、被害経験のある候補者に精神的負担を生じることがある。被害経験のみを「公正な裁判に影響をおよぼす可能性のある」有害なバイアスを生じる可能性として問題視することは、加害体験は問われないことから考えても、問題である。
 弁護側が裁判を有利に運ぶための戦略として女性および被害体験者を忌避している結果、性犯罪事件では男性裁判員の比率が高くなっている。こうした不選任請求の用い方は疑問である。

公判について
 審理中のプライバシー保護について一定の評価はできるが、人的ミスも見られた。検察が必要以上に事件の詳細を述べていると感じられたケースもあるが、改善されている地検もあるようである。一方、弁護人側においては、被害者の職業や言動を「落ち度」としてあげつらうなど、配慮にかける弁論がみられた。二次被害となるような弁護活動は慎むべきである。
 被害者本人の意見陳述は裁判員に大きなインパクトをあたえたようだが、一方で、自分で意見陳述をした方が量刑が重くなるというプレッシャーを、被害者が感じているのではないかと懸念される。

判決について
 市民の目から「裁判官の常識」が見直された結果、裁判官裁判より重い量刑となる傾向が見られるが、いわゆる「強姦神話」にあてはまらないようなケースでも同じような結果になるか疑問である。また、保護観察付執行猶予がつくことが多くなっているが、性暴力の構造的背景や、更正プログラムが裁判員に十分に理解されているのか疑問である。

提言  性暴力被害者にとって、現在の裁判制度は決して被害を訴えやすいものではない。特に裁判員裁判では、種々の面で被害者の負担やプレッシャーは大きくなっている。望まない被害者に裁判員裁判を強制すべきではないし、被害者が裁判員裁判を望まない場合、本来より軽い罪で訴えざるを得ないような制度は問題である。
 性暴力被害者のプライバシー保護は、運用面では改善されたが限界があり、制度面の見直しが必要である。また、被害者が直接証言をすることへのプレッシャーについて考慮すべきである。
 被害者が安心して訴えられる裁判を実現するためには、被害者の意見を反映した裁判員制度の見直しとともに、職業裁判官が審理するものも含む裁判制度そのものの見直しが必要である。

【報道記事】被害者尊重し、選択制に 性犯罪審理で市民団体提言(共同通信)
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