富山地裁:「幼い」理由に女児の性暴力事件告訴能力を否定
2012/03/16母親の交際相手から性的侵害を受けたと女児が訴えた事件について、富山地裁が今年1月、「幼い」ことを理由に告訴能力を認めず、起訴そのものを無効としていたことが明らかになりました。
報道によれば、富山中央署は昨年6月、交際相手の女性の長女(当時15歳)および次女(当時10歳11カ月)に対して性暴力行為を行った男性と、犯行をほう助した母親を逮捕しました。男性は2009年4月頃から母親と同居をはじめ、その年の夏頃から、姉妹に対して性的暴力をくりかえしていたとみられています。
強制わいせつ罪は被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪とされています。被害者が未成年の場合は法定代理人である親権者が告訴できますが、富山地検は、一連の事件に母親も関与しているとみられ捜査の対象となっていたことから、告訴権者にはあたらないと判断しました。
地検は「当時は地獄だった。犯人を死刑にしてほしい。でも法律上それは無理だと聞いた。だったらできるだけ重い罰を与えてほしい。母親に対しては反省して戻ってきてほしい」という妹の供述調書を正式な告訴状の代わりとしたうえ、祖母からの告訴状を受けて起訴していました。こうした手法は最高裁判例でも認められ、実務上通例となっており、また、形式張った「告訴状」よりも被害者の生の声の方が有効と判断したためといいます。
今年1月19日、富山地裁は男性に懲役13年、母親に同ほう助罪などで懲役4年の判決を下しましたが、次女に対する強制わいせつ事件1件については、公訴棄却としました。
田中聖浩裁判長は、判決で、(1)被害の客観的経緯を認識している(2)被害感情がある(3)制裁の意味や仕組みを理解している--を告訴が有効な条件としたうえで、次女の「幼い年齢」や本人の正式な告訴状が作成されていない状況から、「告訴能力を有していたことには相当な疑問が残る」としました。祖母の告訴状についても、次女に対する強制わいせつ事件に関しては、母親が最終的に起訴されなかったことから、告訴権者は母であって祖母ではないとして無効としました。
富山地検は「告訴能力は年齢で一律に決まらない。次女の供述は具体的で処罰感情などもあるのに、地裁は本人への尋問もせず、告訴能力を実質的に検討していない」として控訴しています。
幼い子どもや知的障害のある被害者の告訴能力が否定されたり、証言に信頼性がないとして却下されることは、しばしば起きていますが、富山地裁が指摘しているように、年齢によって一律に判断されるものではなく、内実を精査して告訴能力を認めた例は過去にもあります。性的被害を受けた子どもや障害者の権利回復のため、司法面接の導入を含む、司法対応の見直しが必要です。
【報道】
●毎日新聞(3/14)<強制わいせつ>10歳の告訴能力、「幼い」理由に否定
●毎日新聞(3/14)わいせつ事件公訴棄却判決 10歳告訴能力どこまで