ハーグ条約加盟:DV・虐待への対応に懸念
2014/04/03 4月1日、日本政府は、国際結婚が破綻した際の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約(国際的な子の奪取についての民事面に関する条約)」に正式に加盟しました。ハーグ条約は、加盟国間で国際結婚が破たんした場合、一方の親が監護権を持つ他方の親に無断で16歳未満の子どもを国外に連れ去った際に、子どもを元いた国に返還させることや、その手続きについて定めています。条約には2014年1月末現在で91カ国が加盟しており、加盟により、条約に加盟する他国に子どもを連れ去られた親が、子どもとの面会や返還のために国に援助を申請できるようになり、加盟各国の親からは、日本にいる子供との面会や返還が求められるようになります。「返還援助申請」は4月1日以降の連れ去りを対象としていますが、面会を求める「面会交流援助申請」は過去の事案にも適用されるため、条約発効直後から国内外で申請を出す動きが予想されます。
日本で返還の援助申請に対応する外務省ハーグ条約室は、専門スタッフとして現役の家庭裁判所裁判官や調査官、家庭内暴力や児童心理の専門家、家庭紛争事件に詳しい弁護士などを採用しました。また、子どもの福祉のために両親による合意のもとで友好的な解決を図ることが必要との観点から、裁判外紛争解決手続(ADR)機関を公表したほか、面会が実現した場合に立ち会う面会交流機関と業務委託契約を結びました。ADR 機関には、公益社団法人総合紛争解決センターと東京の3弁護士会、米軍基地に関係する米国人との国際結婚におけるトラブルが想定されることから、沖縄弁護士会も指定されています。協議による解決を求める人は、外務省の委託するADR機関を利用することができます。また、日本弁護士連合会が、面会や返還を求めてきた外国の親や、子どもを連れ帰ってきた国内の親に弁護士を紹介する制度を開始します。
国際結婚における子どもの「連れ去り」については、実際には、家庭内暴力や虐待から逃れるために、女性がやむを得ず母国へ子どもを連れて逃げるケースが多数であるにもかかわらず、そうした事情が考慮されず「違法」とされてしまうことや、子どもを返還した後の適正な監護養育が保障されていないこと、返還の執行によってもたらされる個人情報開示などの人権侵害により、条約加盟に疑問が呈されてきました。2011年5月20日に条約批准を閣議決定した際、政府は返還例外事由を条約よりも拡大し、子どもや連れ去りを行った親への暴力が認められる場合には返還を拒否できるとしましたが、法的には国内法よりも条約が上位にあるため、実際にどれほどこうした事例に対処できるか、今後も注視する必要があります。
【報道】
●毎日(4/1)ハーグ条約:発効 「連れ去られた子供」返還制度整う:過去の事案にも適用「面会交流援助申請」に国内外で動き
【参考】
●外務省「協議のあっせんを希望する方へ(ハーグ条約に基づく中央当局による援助について)」
●ハーグ『子の奪取』条約の批准に慎重な検討を求める市民と法律家の会
【関連】
●ハーグ条約加盟閣議決定に重大な懸念