院内集会「国家戦略特別区域における『家事支援外国人受入事業』の課題 ―新たな人権 侵害を起こさないために」開催
2015/09/082015年9月3日、アジア女性資料センターは、院内集会「国家戦略特別区域における『家事支援外国人受入事業』の課題 ―新たな人権侵害を起こさないために」を開催した。
●(9/3)院内集会:「国家戦略特別区域」における「家事支援外国人受入事業」の課題 ―新たな人権侵害を起こさないために
「女性の活躍推進」の一環として政府が進めている外国人家事労働者受け入れ事業は、多くの問題を抱えているにも関わらず、あまり注目をされてこなかった。また、女性たちのなかには女性の役に立つ取り組みだとして歓迎する声もある。
しかし、この政策は本当に女性たちのためになるのだろうか。その実像を掴み課題を明らかにするため、香港から国際家事労働者同盟(IDWF)のアジア地域のコーディネーターを勤めるイプ・ピュイ・ユ(Ip Pui Yu、通称Fish:フィッシュ)さんを招き、移住家事労働者受け入れ先進事例として香港の実態を共有した。
また、竹信三恵子さん(和光大学教員、アジア女性資料センター副代表理事)は、この政策が日本の女性たちに与える影響について問題提起を行った。
集会の趣旨説明で竹信さんは、「海外の家事労働者は厳しい労働条件に置かれている。気をつけなければ人権侵害の温床になりうるということだ。移住家事労働者を取り巻く問題はどんなものなのか、日本に住む私たちはこれから何に気をつけなければならないのか、ということを共有していただきたい」と話し、「日本の女性たちの『家事労働の支援が必要だ』という悲鳴のような声、外国人労働者の人権、日本ですでに働いている介護・福祉・家事労働者の人権、それらがどうバランスをとっていくのか、そのために何が必要なのかということを考えたい」と続けた。
香港では、人口約700万人のうち労働人口は約300万人で、そのうち33万6600人が移住家事労働者として働いている。労働人口の約10%が家事労働者であり、8世帯に1世帯が労働者を雇っている計算だ。大多数はフィリピン(17万7077人)とインドネシア(15万1380人)からの移民で、1970年代から受け入れが始まっている。ローカルと移民の家事労働者どちらの組織化にも取り組むフィッシュさんから、こうした香港における移住家事労働者の状況と問題点について共有があった。
フィッシュさんは「香港では移住家事労働者は”労働者”と認められており、賃金、年次休暇、失業給付などが保証され、組合をつくる権利も認められている」とアジアの他国に比べると比較的、移民家事労働者の権利が認められているとした。しかし、契約終了または契約期間中のさまざまな理由により雇用が終わった際にビザが2週間しか滞在を許さない「2週間ルール」の存在や、国内労働者と競合しないためとする雇用者の家の住み込み労働の義務づけや、仲介業者の法外な手数料の問題などまだまだ多くの問題が残っていると指摘した。
そして、「移住家事労働者に関する法律が整っている方である香港でも仲介業者の法外な手数料や、雇用主による虐待などの問題は後を絶たない。法律があっても、その法律を使うことができない。その大きな理由は家事労働とは他者の目が届かない家庭内、つまり密室で行われるからだ。そうした意味でも家事労働者を組織化することは大変重要であるし、政府はそうした実態を知り対応策を打ち出すことが求められる」とも話し、今後の日本社会へのメッセージとした。
竹信さんは、8月5日から同月17日まで、内閣府が行ったパブリックコメントについて政府の出した政令案と指針案を、アジア女性資料センターと移住連の連盟で提出したコメントとともに紹介。また、「日本の女性たちのなかには家事をやってくれる人を雇えるなら嬉しい、と思う人がいるかも知れない。ただ、この制度がはじまれば、公的福祉は削減され、長時間労働を課せられ、家事分担不足の問題は放置されるという、3重苦が激化するのではないか」と話した。終わりには、日本がいまだ未批准である家事労働者条約(ILO189号条約)批准の重要性も訴えた。
移住連・事務局長の山岸素子さん、カラカサン~移住女性のためのエンパワメントセンターのレニー・トレンティーノさん、有償家事労働ネットワーク呼びかけ人で働く女性の全国センター代表の栗田隆子さんもそれぞれ発言を行い、それぞれの活動の現場から政策に関する問題点を指摘した。
ヘイトスピーチの問題にも表れているように、人種・民族差別の根強い日本において、対策の議論が不十分のまま進められれば、人権侵害の温床となる危険性は高い。また、利用できる世帯とできない世帯間の分断が生まれ、利用できる女性たちは長時間労働に駆り出されるといった新たな問題は起きないだろうか。公的資金は社会保障費に充てられることはなく、買える人だけが「自己責任」で買うというスキームへの移動が始まっていくとすれば、女性にとってのメリットなど、もはやないのではないか。
竹信さんは、家事・育児・介護などの問題解決のためには、そこへ公的資金を充てる、職場での長時間労働を止めさせる、家事労働のジェンダー分担を見直すための施策を打ち出すなど、別の政策が必要ではないかと話す。
8月に出された政令(案)と指針(案)へのパブリックコメントの期間はどちらもたった2週間だった。そしてお盆休みの真っ只中でもあったことから、形式的なものという印象を抱く。
2015年9月1日、特区法の政令は施行された。「外国人家事支援人材」事業の指針は内閣府地方創生推進室におかれている国家戦略特別区域諮問会議の意見を経て正式に公表される予定だ。
集会には約200人の参加があり、糸数慶子議員、郡和子議員、福島瑞穂議員など3名の国会議員と5名の議員秘書、メディア関係者も15名が参加した。
●集会の写真(AJWRCブログ)
【参考】
●国内ニュース:「国家戦略特別区域家事支援外国人受入事業」に関するパブコメ結果公表
●キャンペーンページ:家事労働者に権利を!ILO「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約」(189号)を批准しよう!