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吉見裁判:東京地裁が原告側の訴えを棄却

2016/01/21

2016年1月20日、中央大学の吉見義明さんが、日本軍「慰安婦」問題に関する自著の内容を「ねつ造」だと言われたことに対し、日本維新の会に所属していた桜内文城前衆議院議員を名誉毀損で訴えていた裁判で、東京地裁(原克也裁判長)は原告側の訴えを棄却した。

2013年5月13日、橋下徹前大阪市長が、記者団を前に「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」と述べた。この発言は、国内のみならず国際的にも多くの批判を受けることとなり、同月27日、橋下前市長は海外メディアへの弁明のために外国特派員協会で記者会見を行った。

この記者会見で司会者が吉見さんの著書に触れた際、同席していた桜内前議員が「これはすでにねつ造であるということがいろんな証拠によって明らかとされております」と発言。これまで日本軍「慰安婦」の実態を明らかにしてきた吉見さんの研究を「ねつ造」だとしたのだ。

吉見さんは、1992年1月11日、当時の防衛庁防衛研究所図書館において、「慰安婦」の募集や慰安所の設置や管理などに日本軍が深く関与してきた資料を初めて発見し、発表した。この発見がきっかけとなり、戦時中の重大な女性の人権侵害に関する日本政府の責任が明らかになったのだ。その後も「慰安婦」問題に関する研究を続ける吉見さんは、国内外問わず最も優れた歴史研究者として評価されている。1995年に出版された吉見さんの著書『従軍慰安婦』(岩波新書)は、2000年に翻訳され、世界中で読まれているものだ。

今回、東京地裁は、一つの争点となっていた桜内前議員の発言のなかの「これ」の意味について、吉見さんの著書のことだったと認めた。また、吉見さんの著書の内容が「ねつ造」であるという発言は社会的評価を低下させるものである、つまり名誉既存に該当するとした。

しかし、発言自体はその場の口頭で述べられた短いコメントであるため、これを聞いた者が「ねつ造」という言葉を本来の意味どおりに受け取ったかは疑問だとした。また、「慰安婦」が性奴隷であったかについては、事実そのものではなく、そう評価するべきかどうかの問題であり、このような理由で、桜内前議員の発言は意見ないし評論の域を逸脱しておらず、違法性はないため、免責されるとして、原告側の請求を退けた。

なお判決文では、桜内前議員は吉見さんの著書を読んでおらず、読んだこともないものを批判した点について「原告に対する配慮を欠くもの」と指摘している。

名誉毀損であることは認めながら違法性はないとしたこの判決について、吉見さんは、研究者に対し著書が「ねつ造」だといわれるのは最大の侮辱だとし、控訴する考えを明らかにしている。

◆判決文全文(PDF)
【関連リンク】 ◆ 吉見義明さんの名誉毀損裁判の支援ネットワーク「YOSHIMI裁判いっしょにアクション!」
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