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セミナー報告「イスラーム世界で生きる女性たちと問われる私たちの意識」第1回「シリア難民となった女性たちの現状―難民キャンプにおける妊産婦支援の現場から」

2016/04/27

2016年4月22日、渋谷区女性センター・アイリスで、連続セミナー「イスラーム世界で生きる女性たちと問われる私たちの意識」の第1回を開催しました。(詳細はこちら

第1回の講師は、国際看護師の国井真波さんでした。

国井さんは大学を卒業してから看護専門学校で看護師免許を取得。その後、大学院修士課程で助産学も学びました。

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(国井真波さん)

シリアの内戦が悪化してきた2012年、JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)から要請を受け、妊産婦支援のためイラク行きを決意します。2013年にヨルダンのアンマンとイラクのアルビルで都市難民となっている妊産婦への支援を開始。家庭訪問をしながら体調確認とニーズの把握を主に行いました。2014年、アルビル郊外にできたダクシャクラン難民キャンプでシリア難民の妊産婦支援を開始します。今回のセミナーでは、シリア難民キャンプでの妊産婦支援の経験についてお話を聞きました。

(※以下、国井さんのお話のまとめです。)

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2013年、都市難民となった妊産婦への聞き取りの結果、オムツやミルクの不足、そしてシリアにいた頃は受けられていた妊婦検診が受けられないという大きな問題があることがわかった。妊婦検診は胎児の状況や自分自身の体調管理をするためにとても大切。しかし、難民となってしまいお金がないため行けないという状況だった。検診自体は無料だが、検診を受けに行くための移動費がない。また女性は一人で車に乗って出かけることが難しいので夫と一緒に行くことになるが、夫は長時間働きに出ていて検診に連れて行ける時間がないという問題もあった。その頃、JIM-NETでは車代を出す支援や検診に同行する支援もしていた。

2014年からはじまったダクシャクラン難民キャンプでは、主に2つの情報提供の支援に携わった。まず、アラビア語で『妊娠中の過ごし方』という妊婦向け冊子の作成をした。現地に派遣されている日本のプロジェクトマネージャーとイラク人スタッフと共に作成した。キャンプでは妊婦検診を受けられないため早産や流産が結構あった。また出産と同時に母親が死んでしまうケースも。母子共に健康な出産をしてもらうための冊子にした。1000部作って無料で配布している。

もう一つの支援は避妊セミナーの開催。キャンプの看護師から「難民キャンプ内で避妊がされていないため、家族計画のセミナーをして欲しい」という要請を受けたことがきっかけだった。キャンプ内のクリニックで手に入る避妊具・避妊薬を調べたところ、男性用と女性用のコンドームやピル、IUDなど無料で手に入るものが十分にあった。モノはあるのに避妊ができないのは、そこにあるという情報がいきわたっていないことや、もらいに行き難い雰囲気、そして使用方法がわからないことが原因だと考えて、セミナーを開催した。どこまで性教育をやっていいのかわからなかったため、現地の看護師や通訳のイラク人女性に相談しながらセミナーの内容を決めた。50人くらい来てもらえればいいと思っていたが、100人以上となった。

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セミナーを開催するにあたって理解してもらえたか確認するためにアンケートをとった。アンケートでは、ピルについては知っているが、コンドームの使い方を知らない人が多くいた。また、無料の避妊具を使っていない理由として、無料で手に入るものがあると知らなかったからという人が多く、情報を必要としているがなかなかアクセスできないということを感じた。

セミナー後には個別の質問が多くあった。個別の質問に対しては大きなセミナーでは対応できないと考え、小さいグループでのセミナーや家庭訪問を増やすことにした。2014年6月からは、10代のグループ、妊産婦グループ、未婚女性グループなどに分けて、10人前後の小さなセミナーを開催した。これも避妊に関する情報共有が重要な目的だったが、避妊をテーマとしたセミナーだと女性たちが参加しにくいので、「自分のからだを知ろう」というタイトルにした。また参加者にはちょっとしたプレゼントも用意。鉄分の多い野菜やキャンプではなかなか手に入らない果物、赤ちゃんのいる女性にはオムツなどをお土産にした。1時間程度のセミナーを1日2~3回繰り返し、毎回盛況。センシティブな話題なので、完全に女性だけの空間でセミナーをしている。

毎回のセミナーで私が必ず伝えたいと思っていたのは「女性はいつ、何人子どもを産むかを自分たちで決める権利がある」ということ。キャンプには望まない妊娠をしている女性もいる。個別訪問では、これ以上育てられないが夫が避妊に協力してくれないという話を聞いた。避妊は膣外射精でいいと思っている女性たちが多かったことに驚いた。その後のセミナーでは、避妊とはなにかとか、科学的に私たちはどういう過程で妊娠するのかというところから話をするようにした。身体を大事にするために基礎体温をつける習慣をつけようという話もしようとしたけれど、それはなかなか難しいと現地のスタッフに言われたので、かなり原始的な方法だけれど基礎体温がわかる方法もあるので、それをお伝えした。

PMSについては多くの女性たちが悩んでいた。生理の前に頭が痛くなるなど、さまざまな症状があった。ほとんどの女性たちはPMSのときにはハーブティーを飲むと話していた。シリアにいたときからそうしているという。

活動に継続的に関わっていると女性たちの抱えている問題が変わってくることを感じる。最近、避妊セミナーの最後に「子どもをつくりたいがどうしたらいいか」という質問が出てくるようになった。シリアにいたときは不妊治療をしていたが、イラクに難民として来てから治療が中断してしまったとか、生理が月に2度以上きたり、半年こなかったりという月経不順についても質問がされるようになっている。習慣性流産の女性も何人かいる。なかには既に3回流産をしていて、次にまた流産したら離婚をされてしまうと泣く女性もいた。子どもが産めないために離婚される女性は多くいる。それまでは避妊に焦点をあててセミナーを開催していたが、家庭訪問を通して、子どもを産みたいけど産めない女性もたくさんいることがわかった。そして、ISに捕らえられて、性器に拷問を受けたという女性もいた。彼女から「私は妊娠できるでしょうか」と聞かれたが、何と答えていいかわからなかった。「大丈夫だよ」と励ますことしかできなかった。彼女はよく相談をしてくれたと思う。なかなか表には出てこないが、他にも同様の被害を受けている女性はたくさんいるのではないか。

生まれた子どもの育て方に悩んでいる女性たちもいた。先天性疾患を持って生まれてくる子どもたちもいるし、体重が増えない子どももいた。家庭訪問で会った女性は子どもの体重が増えないことで悩んでいた。彼女にとって初めての子どもだったが、親しい友達や家族はみんなシリアにいて、子どもをどう育てるのか、だれにも相談することができなった。チームで離乳食に関するアドバイスをしていたら、ようやく体重が増え始めた。お金がないため子どもたちにクッキーやケーキばかり食べさせている女性もいた。また、粉ミルクの缶にはミルクの作り方がアラビア語で書いてあるが、文字を読めなかったり、書いてあることが理解できない女性もいる。ミルクの作り方のセミナーをしたこともあった。

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キャンプができた2013年、難民としてキャンプにいる7000~8000人のうち妊婦さんは250人程度いた。キャンプ内にはクリニックもあるが、正確な統計をとることが難しい。いま、妊婦さんは約500人いるといわれているが、医療従事者が足りない。

難民キャンプで私の支援は避妊セミナーから始まったが、さまざまな他の課題も見えてきている。2013年からシリア難民の支援に関わって、お金や食べ物はもちろん必要なのだが、情報も必要としていることがわかった。情報にアクセスできない、情報にどうアクセスしたらいいかわからない女性たちがいる。どうしたらいいかわからないため、結局シリアに戻ってしまう女性たちもいた。モノの支援も大事だが、適切な情報提供の支援も重要。私は看護師として情報発信の部分で今後も女性や赤ちゃんたちに関わっていきたいと思っている。

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連続セミナー「イスラーム世界で生きる女性たちと問われる私たちの意識」の第2回は、講師に清末愛砂さん(室蘭工業大学大学院准教授)を迎えて2016年6月17日(金)に開催します。詳細は詳細はこちらをご覧ください。第2回もたくさんのご参加をお待ちしています。

ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

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