「女たちの21世紀」最新号「『女性宰相』待望論の光と影―女性大統領・女性都知事・女性党首時代を読む」の「特集にあたって」公開
2016/12/22特集にあたって
「女性宰相待望」へのほろ苦さを超えて
「世界の盟主」ともいわれた米国に、女性の大統領が生まれるかもしれない―。2016年、ヒラリー・クリントン候補へのそんな期待で女性たちは湧いた。ふと見渡してみると、各国には女性のトップ政治家が顔を並べていた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相に始まり、韓国の朴槿恵大統領、台湾の蔡英文総統、英国のテリーザ・メイ首相。そして日本でも、野党第一党の民進党に蓮舫代表が就任し、首都東京で小池百合子都知事が誕生した。
だが、私たちはいま、女性が政界を率いればその「清潔さ」で政治は浄化され、女性たちの暮らしもよくなるという「女性宰相待望論」へのほろ苦さをも噛みしめ始めている。
ヒラリーの落選では、「黒人の次は女性か」という白人男性の反発を理由に挙げる見方がある。もしそれだけなら、私たちは「ガラスの天井」を破るという課題へ向かって引き続きまい進すればいい。問題は、ヒラリーが環太平洋経済連携協定(TPP)の推進者、ウォールストリートの代弁者とみなされた、というもうひとつの敗因分析だ。
高学歴の新エリート階層にとってはチャンスとなりうるTPPや金融ビジネスも、中流の工場労働者にとっては没落と貧困への道につながりかねない。女性でも高学歴と知識を手に入れれば上昇できるというアメリカン・ドリームは、経済格差の拡大の中で、それらを手に入れることができない階層の男女にとっては絶望の言葉になりかねない。「初の女性大統領」の輝きを、格差社会が覆い隠してしまったのだ。
李珍玉は、男女格差が激しい社会といわれてきた韓国で女性大統領が出現したことへの期待が、その「国家予算の私物化」によって暗転したと述べる。女性のトップ政治家の輩出は、「女は政治家になれない」というステレオタイプの打破には役立ったかもしれない。だが、それによって女性の問題は解決する、という期待は、裏切られ続けている。
私たちはいま、単なる「男女平等」のシンボルとしての「女性宰相待望論」の見直しを迫られているのではないか。女性の政治家に人々が込めた社会的少数者の人権のための政策を現実のものとするには、そのような政策を求めて女性の政治家たちを底辺から突き上げ、支える、階層を超えた女性ネットワークの強化こそが必要なのではないのか。
私たちがいま味わっている「女性宰相」時代へのほろ苦さは、そうしたすそ野づくりへ向けたスタートラインだ。球は、「女性宰相」から私たちに向かって投げ返されている。
竹信三恵子(責任編集)
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