【特別インタビュー】SEALDsメンバー・ 福田和香子さんインタビュー
2016/02/29【『女たちの21世紀』84号掲載 特別インタビュー】
学生が中心となって安保法案の反対運動を展開したSEALDs(シールズ)。メディアでもたびたび取り上げられ、多くの賛同を集めた。安保法案自体に大きな問題を孕んでいたことも理由の1つではあるが、SEALDsの新しい運動のスタイルに共感したことがきっかけで初めてデモに参加した若者は多かっただろう。福田和香子さん(22)は、秘密保護法の頃から活動に参加している中心メンバーの1人だ。「夏はSEALDsの活動で忙しかったけど、本当はクラブに行って遊ぶのが大好き」と話す和香子さんにインタビューした。
今やれることはデモに行き続けること
2013年10月に特定秘密保護法関連のニュースをよく見かけるようになりました。「なんか変だな」と思って調べてみたら、この法律は憲法と関係があることで、このまま通してしまうのは危険だと知ったんです。すぐにネットで「特定秘密保護法」「反対」「デモ」のキーワードを入れて検索したら、最初に出てきたのが国会前のデモでした。ちょうど翌日だったので参加したのですが、若い人が全然いないんですね。ただ、当時の私は選挙権がない19歳でした。選挙で投票できないなら、今やれることはデモに行き続けることだと覚悟を決めて、しばらく通うことにしました。
デモに参加しているうちにマイクで話す機会がありました。するとスピーチ後に、私の発言を聞いてくれた同世代の人が声をかけてくれたんです。それがSASPL(サスプル)(注)の初期メンバーの1人でした。「やっと学生がきた!」と嬉しくなったのを覚えています。そこから現在のSEALDsで活動しているメンバーに繋がっていきました。
新しい運動スタイル
若い人のグループで、デモにヒップホップ音楽のサウンドカーを取り入れたり、新しいコールの打ち方をやってみたり、グループのTシャツやステッカーを出したりすることは、従来の日本の運動のイメージを変えたと思います。とにかくデモは「怖い」「危ない」というイメージを打ち崩すのは大変です。デモに行ったことがないのに、イメージだけは持っている人って多いんですよね。
SEALDsメンバーは、日常の延長で活動することを大事にしています。学校の帰りに国会前に行くし、その後デートにも行くんだってことをずっと言ってきました。「本気じゃない」とか「保守的だ」と言われることもあるのですが、日常の一部にデモがあることのどこが「本気じゃない」のでしょうか。また、そういうスタイルこそが新しいので「保守的」という批判は違うと思います。
活動のなかで出会う新たな社会問題
活動を通してさまざまな社会問題を知ることができました。沖縄やセクシズムの問題もそうです。
デモに参加していた沖縄出身の人に「基地問題を知りたいなら1回、見においで」と言われ、その1週間後に辺野古に行きました。座り込みにも参加したのですが、沖縄の印象がガラッと変わったんです。これは「沖縄の問題」じゃなくて「永田町の問題」と強く思いました。
1つでも新しいことに気がつくと、それまで違和感を持っていたさまざまなことに気づかされることってありますよね。沖縄では、まさにそんな体験をしました。
SEALDsの「本当に止める」というスローガンがありましたが、私は途中から「女」であることを本当に止めるために使おうと決めました。丈の短いタンクトップを着たり、目立つ服を着るんです。すると前に出てコールをするときのカメラの数が男性メンバーとは違います。中年の男性たちがカメラを構えて前に飛んでくるんですね。テレビのニュースでは、男性メンバーの発言よりも「デートしたいのに、こんなことしなきゃいけないなんて!」と話す私の映像が使われました。メディアの上層部は男性が大半だということもあって、「女の子」がしゃべっている映像の方が面白いんだと思います。
ただ、目立つようになるとバッシングが増えました。ムカつくんだと思うんです。自分の意見を持って政治に「物申す女」が出てくることに、社会はまだ耐えられないということでしょうか。「しゃべる女」は珍しいんだ、ということに気がつかされました。
私へのバッシングは、性的な誹謗中傷がほとんどです。気持ち悪い写真や「早くやらせろ」「平成の慰安婦」といったメッセージばかりが送られてきます。安保法案に関するメッセージはほとんど来ません。
SEALDsの男性メンバーにも、いろんな脅しやバッシングがくるわけですが、女性メンバーに来るような性的に貶めようとするものは、ほとんどないです。
これまで公的な場で「女」という性を意識することがなかったのですが、こうしたことを経験して、日本の女性たちがこんなにも抑圧されていることを知りました。
日本に住んでいる人のネットリテラシーの低さにも驚かされています。ネットで調べて出てきたことをそのまま鵜呑みにして疑わないのです。歪曲された情報の中にいると、すごく病んでしまいますよね。私自身もネット世代なので、ネットとリアリティの区別が付かない部分は多少あるかも知れませんが、朝起きたら死体の写真が何十件と送りつけられているという日常を送っていると、感覚が麻痺してきます。なんとも思わなくなっていたはずなのに、ある日、ストレスで倒れてしまったことがありました。自分では気がつかなかったけれど、身体を蝕まれていたんです。
女性たちに植えつけられた意識
女性たち自身の意識も変わらなければいけないと感じています。たとえば、痴漢の被害にあって母親に話しても「そういう格好をしているからでしょう」と言われてしまう女の子って、たくさんいますよね。私も、SEALDsの活動を応援している女性たちから「そんなに挑発的な格好やしゃべり方をするからバッシングがくるんでしょう」と言われました。デモが終わった後に「あなたの発言は素晴らしかったんだけど、そういう格好していると聞いてもらえないよ」と、30代の若い世代の女性たちが平気で言うんです。「意見を言うなら一歩下がったところから」というスタンスが当たり前なのかと悲しくなります。
世代間で多少の違いはあるかも知れませんが、「女性は身を守らなくてはならない」「男性を不快にさせてはならない」という保守的な考え方は、多くの女性たちに感覚として植えつけられていると知りました。
もう女は黙んない
この2年で、安倍政権の政治そのものが私にとってすごく抑圧的であることをはっきりと認識しました。抑圧的であるということは、寛容ではない、受容してくれる社会ではないので、在日外国人やセクシャル・マイノリティ、難民として逃れてきた人たちを受け入れないということです。私はこのどれにも当てはまらないのだけれど、こうしたマイノリティの問題を無視していたら、そのうち「お前は女だから」という理由で排外される日が来ると思っています。だから私は、安保法案に反対しなければいけないし、原発は止めなければいけないし、社会でマイノリティとなっている人たちの権利保障のためにできることはしなければならないと思っています。
これまで女性の権利について数多くの女性たちが闘ってきたと思います。国会前デモにも、おばあちゃんたちがたくさんいました。戦争を体験した人、直接的な女性差別をたくさん受けてきた人たちもいたと思います。そういう人たちをないがしろにできるほど、私の意識は甘くないです。
ただ、社会にはフェミニズムやフェミニストに対しての悪いイメージがあると思います。「ギャンギャン文句を言う女性たち」といった怖いイメージですね。でも、私は、実際に女性たちが社会的に弱い立場にいることを知って、私はこれからの世代の女の子たちに「黙らなくていいよ」って伝えたいです。
「もう女は黙んない」というメッセージをどう的確に伝えられるかなって考えたときに出た答えが、挑発的なスタイルで前に出ることでした。実は、じっくり考えている時間なんてなかったので、短期的にできることという理由でこうなったんですけど。
バッシングを受けながらも前に立つことで、「カッコイイ」と言ってくれる女の子たちも増えました。「和香子さんの言っていることは、あんまりわかんないんだけど、とりあえずカッコイイから来てみました!」なんて言ってデモに参加してくれるんです。それでもいいと思います。そこでいろんな問題を知ることができるからです。
安倍首相は「女性が輝ける社会を」と言っていますが、その言葉の前に置きたい言葉は、「私たち男のために」だとしか思えません。舐めるのもいい加減にしてくれって感じです。そして安倍首相の周りにいる女性議員は、みんな彼に媚びていますよね。彼の女性議員への言動は酷いものがあるのに、彼女たちはそれでいいんでしょうか。女性の権利のために立ち上がってきた女性たちを見習ってほしいと思います。
将来は、書く仕事をしたい
今は、新しいことを勉強して自分のなかに蓄えられるものを蓄えてから社会に出たいという気持ちです。将来は書く仕事をしたいと思っています。実は私、人前で話すことより、書く方が得意なんです。
私は2年間の活動を通して、女性に対する抑圧を意識せざるをえなくなりました。だからフェミニズムについて学ぼうかなと思い始めています。そうすることで私自身が生きやすくなるかなって思えるからです。
(まとめ:濱田すみれ/アジア女性資料センター)
注 「 特定秘密保護法に反対する学生有志の会」。SEALDsの前身グループ
☆福田和香子さんをゲストに迎えてトークイベントを開催します☆
詳細:https://www.ajwrc.org/650