【書籍紹介】3月までに到着した書籍
2011/04/02「デンマークの光と影―福祉社会とネオリベラリズム」
「フェミニストカウンセリングの実践」
の3冊をご紹介。
労働再審〈3〉女性と労働 (2011/01) 不明 |
私は「雇用の多様化は、格差を生んだだけだ。」という実感を、派遣労働者という当事者として、労働者派遣法改正を中心に女性の非正規労働者の貧困問題等に関わってくる中で強めてきた。当事者を調査対象としてしか見ない研究者、ジェンダーバイアスを問題視しない労組。状況は閉塞的であり活路は見出せない。そんな中、この本に出会った。「事務職」「農村女性」「専門職」「ケア労働」「売買春」等々、まさに女性労働が網羅されている。通底するのは、「『働く/働かない/働けない』という労働をめぐる対立軸は社会的につくられたものであり、個人の受難を自らの受難として引き受ける想像力と、社会変革の行動力を培わねばならない」(藤原千沙)とする視点だ。女性と労働組合とを「貧困なる関係」(山田和代)とし、女性が主体となるNPO等の活動を評価するなど、励まされもする。この本以外で研究者の著作物で涙したものを他には知らない。私自身の属性から、派遣労働については頁数の制限のためか若干物足りないが、考察の精度をより高める役割は、闘う私たちが担いたい。(渡辺照子)
デンマークの光と影―福祉社会とネオリベラリズム (2010/12) 鈴木 優美 |
デンマークモデルとは、「フレキシュリティ」(フレキシブルとセキュリティを合わせた造語)に象徴される社会構造のこと。柔軟な労働市場、寛大な失業手当、積極的労働市場政策という「黄金のトライアングル」を、政府と経営団体、労働組合が合意形成して作り上げてきた。その高福祉社会にも2006年頃から新自由主義の波が急速に押し寄せ、「福祉から就労へ」と政策転換が図られている現実が書かれている。
私が感銘を受けたのは、福祉の担い手である女性たちが2008年に「黄金の三角関係」を崩しかねないほどの強力なストライキを打った事実だ。3・8国際女性デーには、新聞全面広告に「(賃金格差が18%あるのだから)女性はすべて18%の割引を受けるべきだ」と掲載し、現在も議論が続いているとか。デンマークには2004年まで女性労組があったが、今は国内最大労組LOの中の3Fというブルーカラー労組に合流し、多大な影響力を持っているのがわかる。
フェミニストカウンセリングの実践 (2010/11/20) 井上 摩耶子 |
フェミニストカウンセリングは、第2派フェミニズム運動を草の根で支えた、CR活動(女性たちの個人的・社会的レベルでの抑圧からの解放を目指すグループ活動)から始まり、日本へは1980年に紹介された。男性中心の臨床心理学やカウンセリングで見落とされがちなマイノリティへの視点、ジェンダーへの視点を持つ、女性中心のカウンセリングである。その基本理念は「個人的なことは政治的なこと」。女性たち個人が抱えている心理的葛藤や問題の要因を、女性を抑圧する男性中心的な社会の構造の中に位置づける。現状社会への意識の変化は自己変革へ、また他者との問題の共有は連帯を生む。心理的援助にとどまらない、社会の在り方を変えようとするアプローチだ。本書は、カウンセリングの技法や実践について書かれた専門書。今までと違う角度からの問題の考え方を教えてくれる。専門家でなくとも、女性の問題に敏感でするどい視点を身に着けられる1冊だ。