【書籍紹介】「ルポ 母子家庭 ~「母」の老後、「子」のこれから~」
2010/01/18ルポ 母子家庭 「母」の老後、「子」のこれから
関千枝子(著)岩波書店 1600円+税
この本は、単に当事者の生活実態をルポした本ではない。1950年代に遡り、児童扶養手当成立の歴史に言及している。また1974年に結成された広島の「児童扶養手当を18歳に引き上げる会」の壮絶な闘いの描写は、この本の真骨頂だ。夫の酒乱や暴力ゆえに離婚を余儀なくされても母子家庭への社会的差別は今以上に強かった70年代、広島の母たちは仕事を掛け持ちし、運動もして、子どもを育てた。だが必死に闘った彼女らに待っていたのは年金すら満足にない老後……。年金受給前に過労や病いで亡くなった母もいる。彼女らの命がけの闘いは、88年に母子家庭になった私を救う。児童扶養手当だけでなく、受給に伴う様々な福祉サービスがあったお陰で80~90年代の当事者たちは生き延びた。だが電車賃すらままならなかった広島の母たちの運動を、今のシングルマザーはほとんど知らないだろう。
現在、母子家庭の貧困は過酷さを増し働き詰めの母と子どもたちは身心の健康も損ないがちだ。奨学金で進学しても正社員にすらなれない。超高齢社会を支える若い世代の非正規雇用、奨学金等の政治的解決は急務だが、若い世代を育てる母子家庭の命綱、児童扶養手当の未来は厳しい。手当は今、原則受給後5年で半額。当事者運動で凍結にはなっているが予断は許せない。忙しい当事者たちは、この本を手にする余裕すらないだろう。だからこそ、この国の未来を憂える全ての人に手にして欲しい1冊だ。
白崎朝子(介護福祉士・ライター)
ルポ 母子家庭 「母」の老後、「子」のこれから (2009/11/07) 関 千枝子 |