特別公開「女たちの21世紀」No.97 「特集にあたって」
2019/04/16「女たちの21世紀」No.97【特集】女性の労働から日本の近代化を問い直すに掲載した「特集にあたって」(本山央子)をウェブ公開します。
特集にあたって
日本政府が「明治150年」を祝賀した2018年の11月23~25日にかけて、アジア女性資料センターでは、かつて石炭の生産で栄えた福岡・筑豊地域をめぐるスタディツアーを開催しました。福岡で教鞭をとりながら地域史を知る人々とつながってきた会員の徐阿貴さんのおかげで実現した企画です。
石炭は、帝国日本が近代工業化を遂げるエンジンとなった基幹産業でした。他の列強と肩を並べるほどの目覚ましい経済成長にともない、膨大な労働者階級が生み出され、また近代的な性別役割分業が導入されていきます。筑豊炭鉱の基幹労働力を担っていた女性たちがしだいに「主婦化」され、従属的な地位に追いやられていく一方で、炭鉱労働の最下辺で最も過酷な労働を強いられたのは、被差別集団の人たちや、植民地とされた朝鮮から仕事を求めてやってきた人々でした。戦争末期には文字通り奴隷労働を課せられた人たちもいました。
今日、「明治日本の産業革命遺産」を無批判にもてはやす声の高まりのなかで、帝国の深い暗闇の底で労働し搾取された人々の声は、いっそう抑圧され消し去られようとしているようです。ただぼんやりと町を歩いていては決して聞こえてこない人びとの声に耳を澄ますため、地域の中の周辺化された歴史に長年目を向けてこられた井手川泰子さんと朴康秀さんがガイドをしてくださいました。炭鉱での保育に関する野依智子さんの論文もあわせてお読みください。
石炭とともに日本近代工業化の主力であった繊維業では、安く柔軟な労働力として、農村から未婚女性たちが多く動員されていました。沢辺満智子さんは、彼女たちとはほど遠い皇后のイメージが、いかに女性労働の従属化に利用されたのかに焦点を当て、榎一江さんは農村労働も含めた近代化過程における女性労働の構成を総合的に論じています。
明治以来の日本の近代化は、ジェンダー・人種・階級・身分などで人を細かく分断し、常に安価で搾取しやすい労働力を作り出してきました。こうした歴史を考えるとき、「女性の活躍」を謳いながら、便利な使い捨ての労働力として「外国人材」を導入しようとする今日の日本が、まちがいなく「明治150年」の延長上にあることを思わずにいられません。分断と非人間化に抗い、人としてはたらく意味を取り戻すために、深く埋められてきた声に耳を澄ませたいと思います。
本山央子(責任編集)
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「女たちの21世紀」No.97【特集】女性の労働から日本の近代化を問い直す
・特集にあたって 本山央子
・筑豊の炭鉱労働にみるジェンダーと民族 徐阿貴
・女たちの筑豊 ― 井手川泰子さんのお話
・朝鮮人等強制連行・強制労働の足跡を辿る ― 朴康秀さんのお話
・筑豊炭鉱の女性労働と保育 野依智子
・炭鉱関連ブックガイド
・蚕を育てる皇后像 沢辺満智子
・日本の近代化と女性労働 榎一江