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自由権規約日本審査最終見解に関するアジア女性資料センターの見解

2008/10/31
アジア女性資料センター プレスリリース
国連人権委員会が自由権規約審査最終見解を公表

女性に対する差別・暴力を放置し続ける日本を強く批判
政府は勧告を全面的かつ速やかに受け入れ、国際公約の実践を

 第94回国連人権委員会は2008年10月15・16日の2日間にわたり、「市民的政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)の実施状況に関する日本政府報告の審査を10年ぶりに行い、最終所見を10月30日に公表しました。
 ジェンダーにもとづく差別・暴力について、最終所見は、日本軍「慰安婦」制度、民法における差別的規定、政治参加における男女不平等、労働における女性差別、レイプその他の性暴力、ドメスティック・バイオレンス(DV)、人身売買、そして性的マイノリティに対する差別と、幅広い問題を指摘しただけでなく、それぞれの問題について、非常に具体的な勧告を示しました。
 民法改正や政治・経済における不平等など、多くの問題は10年前の第4回審査においても是正を勧告されていますが、10年の間に差別是正の取り組みがほとんど進んでいないことに、委員たちは強い苛立ちと批判を表明しました。労働については、女性の非正規化が差別是正の妨げとなっているとの認識のうえに、女性の正規雇用の促進と賃金格差の是正のために、間接差別是正など7項目にわたり詳細な勧告を行っています。レイプその他の性暴力についても、刑法強姦罪の定義や被害者の抵抗要件の問題、裁判における性的偏見、専門的知識をもつ医療スタッフの養成など、具体的な勧告がなされました。日本軍「慰安婦」問題および性的マイノリティに対する差別は今回初めてとりあげられただけでなく、きわめて具体的な勧告が盛り込まれ、国際社会の強い関心を表しています。DV、人身売買に関しては、加害者の厳正な処罰とともに、被害者に対する長期的かつ包括的な支援の必要が明記されたことが注目されます。
 アジア女性資料センターは、委員会が、これらのジェンダーおよび性的指向にもとづく差別・暴力に関する幅広い問題に細かく注意を払い、具体的な勧告を提示されたことを歓迎します。同時に、自由権規約を含む国際人権条約を尊重し促進するという国際公約にもかかわらず、日本政府が今回の審査においても、終始消極的な態度をとりつづけたことをたいへん残念に思います。私たちは日本政府に対し、委員会の批判を真摯に受け止め、条約の主旨と勧告に従ってジェンダーおよび性的指向にもとづく一切の差別と不平等を是正するための法的・行政上の措置を速やかに講じるよう強く求めます。

各項目について
●民法における差別的規定について(11、28)
女性だけに課される再婚禁止期間、男女で異なる婚姻可能年齢、また、日本国籍の取得や相続、出生届などに関して婚外子に対する差別が存続していることについて、民法その他関連法の改正を行うことが求められました。

●政治における男女不平等について(12)
女性議員の数が18.2%、政府の上位ポストを占める女性が1.7%に未だにとどまっているだけでなく、数値目標自体も低すぎると指摘。クォータ制の導入や数値目標を見直すなどして、平等な参加を促進するためにいっそうの努力を求めました。

●労働における不平等について(13)
賃金や管理職における不平等が是正されておらず、女性労働者の7割が非正規雇用のため、さまざまな不利益やセクシャルハラスメントに直面していることを指摘し、女性の正規雇用を促進し賃金格差を是正するための措置として、具体的に次の7つを挙げて勧告しました。(a)すべての雇用主に対する機会均等のための積極的措置の義務付け、(b)長時間労働につながるあらゆる労働基準緩和の見直し、(c)男女双方のワークライフバランスのため保育施設を増やすこと、(d)改正パート法の適用基準を緩めること、(e)セクシュアルハラスメントの犯罪化、(f)均等法において禁止対象となる間接差別の定義を、世帯主であることやパート、派遣などの雇用形態を理由にした差別にまで拡大すること、そして(g)間接差別を防止するための効果的措置をとること。

●レイプその他の性暴力について(14)
刑法強姦罪(177条)について、「強姦」の定義が男女間の性交に限定されており、女性の抵抗が要件とされていること、また被害者による告訴を要件とする親告罪規定について懸念が表明されました。検察・裁判所については、加害者が正当な処罰をしばしば免れていること、裁判で被害者の性的経験が問題とされたり、抵抗した証拠を示すよう被害者に要求されるという問題が挙げられました。さらに、(女性被収容者に対する性被害を防ぐための)改正監獄法および警察庁の性暴力被害者ガイドラインのモニタリングと実施が不十分であること、そして、性暴力専門知識をもつ医師・看護師が不足しており、そうした専門トレーニングを行うNGOへの支援が不十分であることにも懸念が表明されました。委員会は、刑法強姦罪の規定を見直し、近親姦や性交以外の形態の性暴力、男性に対する性暴力も深刻な犯罪として明記されるべきであること、被害者に抵抗した証拠を求める要件をとりのぞくこと、レイプその他の性暴力を職権により起訴すること、裁判官、検察官、警察官および刑務官に対する性暴力トレーニングを義務付けることを勧告しています。
なお、パラ27では、刑法における性交同意可能年齢が13歳とされていることについて、少年・少女の心身の発達と児童虐待防止の観点から引上げを勧告しています。

●ドメスティック・バイオレンス(DV)について(15)
加害者の処罰が軽微であり、保護命令違反者も深刻なケース以外はすぐに逮捕されていないこと、また、被害者に対する長期的支援の欠如や、外国籍被害者の滞在許可がすぐに下りないことで雇用や社会保障に問題が生じるケースがあることを指摘しています。委員会は、加害者への処罰の引き上げ、保護命令違反者の拘束・起訴、被害者に対する補償および養育費支払額の引き上げと裁判所命令の実施、長期的リハビリ支援の強化、および外国籍被害者など特別のニーズをもつ被害者への支援の強化について勧告しました。

●日本軍性奴隷制について(22)
委員会は、日本政府が「慰安婦」問題に関する責任を認めておらず、加害者が起訴されていないこと、被害者への補償が公的資金ではなく民間の寄付により賄われており不十分であること、この問題に言及している教科書がほとんどないこと、政治家とマスメディアの一部に被害者を貶め事実を否定する発言が繰り返されていることについて懸念を表明。日本政府に対し、法的責任を認め、被害者の多くに受け入れられ、その尊厳を回復するようなかたちで無条件の謝罪を行うこと、すべてのサバイバーに権利の問題として適切な補償を行うため法的および行政上の手段を速やかにとること、生徒および公衆に対する教育を行うこと、被害者を貶めたり事実を否定する企てに対し反駁し制裁を科すことを勧告しました。

●人身売買(23)
委員会は、日本を目的地あるいは経由地とする人身売買被害者数に関する統計データの欠如、人身売買関連犯罪加害者に対する処罰が軽微であること、シェルターで保護される被害者が減少していること、包括的被害者支援策の欠如、そして特別在留許可が加害者の逮捕に必要な期間のみ与えられ、すべての被害者には与えられていないことを指摘。人身売買被害者を特定する努力を強化すること、日本を目的地あるいは経由地とする人身売買被害者数に関して体系的なデータ収集を行うこと、加害者処罰に関する政策の見直し、被害者保護を提供する民間シェルターへの支援を強化すること、通訳・医療・カウンセリング・不払い賃金や補償に関する法的支援・長期的リハビリなどを保障して被害者支援を強化すること、そして、すべての被害者の法的地位を安定化することを勧告しました。

●性的マイノリティへの差別(29)
公営住宅の利用者が異性カップルに限られていること、DV法が同性間カップルには適用されないなど、雇用、住居、社会保障、保健、教育その他の領域におけるレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーに対する法的差別について懸念を表明しました。委員会が理解する条約26条の解釈にしたがって、性的指向に基づく差別を禁止するよう関連法を改正し、婚姻していない同性カップルが異性カップルと同等の権利を受けられるよう保障することを求めています。

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●参考資料
自由権規約委員会の最終見解(英語)
http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrc/hrcs94.htm
アジア女性資料センターのNGOレポート(英語)
https://www.ajwrc.org/doc/2008ICCPR/AJWRCfor94HRC.pdf

●上記の件に関するお問い合わせ:アジア女性資料センター(担当:本山)
TEL:03-3780-5245 FAX:03-3463-9752 

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