【COVID-19とジェンダー】いますぐに政府ができる5つのこと
2020/04/21COVID-19とジェンダー 翻訳記事
以下は国連女性機関(UN Women)・アニタ・バティアUN Women副事務局長からのメッセージの全訳です。
アニタ・バティアUN Women副事務局長
2020年3月26日
いま世界中の政府が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックを食い止めるために試行錯誤しています。女性への影響に警鐘を鳴らす意見もいくらか上がってはいますが、意思決定が主として男性リーダーによって下されているために、ジェンダーへの関心は依然として低いままです。しかし、COVID-19がもたらす脅威の大部分は、特に女性に対して非常に大きな影響を与えているのです。その理由は以下の通りです。
第1に、経済的・社会的な影響はすべての人に対して深刻である一方、とりわけ女性は大きな影響を受けることになります。外出禁止やロックダウン(都市封鎖)によって直接的な影響を受けるフォーマル経済の産業(旅客輸送、観光業、飲食店、食品生産)の多くは、女性の労働力参加率がとても高いからです。それと同時に、世界各地のインフォーマル市場や農業などインフォーマル経済においても、女性労働者は高い割合を占めています。先進地域でも発展途上地域でも、家事労働者や介護士といったインフォーマル・セクターの職種のほとんどは女性によって担われていますが、彼女たちには一般に健康保険が適用されず、支えとなる社会的なセーフティ・ネットを欠いています。
それだけではありません。多くの場合、女性はより多くのケア負担を背負っています。COVID-19の流行以前から、女性は家庭での無償のケア労働を男性の平均3倍も担ってきました。いま、フォーマル・セクターで働く育児中の女性従業員は、仕事(辞めさせられていなければ)、子どもの世話、家庭での子どもの教育、高齢者介護、家事、のなかから、1つまたは2つ以上のことがらを同時にやりくりしなければなりません。なかでも母子世帯は、特に厳しい状況にあります。
第2に、今回の危機は女性の健康と安全にも影響を及ぼしています。感染症による直接的な被害はともかく、妊産婦向けの必要不可欠な医療サービスへのアクセスが難しくなる可能性があります。なぜなら、いま現在、すべてのサービスが感染症対策の基本的な医療的ニーズに回されようとしているからです。避妊薬の入手が困難になったり、その他のサービスが滞ったりする可能性があります。また、女性のパーソナルな安全も脅かされます。感染症との闘いに必要とされる条件(隔離、社会的距離の確保、移動の自由の制限)は、はからずも、国家によるお墨付きの下で容易に暴力をふるうことのできる環境を暴力の加害者に手渡してしまうのです。
第3に、現場で働く医療従事者(特に看護師)の大部分は女性であるため、女性の感染リスクは相対的に高くなります(ある推定値によると、世界の医療関係者の67%が女性です)。それゆえ、すべてのケア労働者の安全に配慮がなされるべきではあるものの、女性の看護師や介護士に対しては、マスクをはじめとする個人用医療備品だけでなく、生理用品などその他のニーズに関して、特別に大きな配慮を払う必要があります。こうした点は、容易に見過ごされてしまいがちですが、彼女たちの力を最大限に生かすためには不可欠なのです。
最後に、パンデミック対策の計画・実施過程に関わる重要な意思決定の担い手が、あまりにも多くの男性で占められています。世界中どこでも、テレビのスイッチを点ければ、男の大群が目に飛び込んできます。主要な意思決定機関(政府、国会、内閣、自治体)の女性参画率が男性に比べて低いことを考えれば、このことは驚くにはあたりません。世界の国会議員に占める女性の割合はわずか25%、国家や政府の首脳に至っては10%にも満たないのです。国のトップに立っている輝かしい女性は何人かいますが、こうしたパンデミックの状況下では、意思決定の場に女性が欠けていることのほうが注目に値するといえます。
こうした問題に対処するため、いますぐ各国政府が実施できる5つの行動を以下に示します。
1点目は、対策のすべての局面にわたり、女性の看護師や医師のニーズを反映させることです。これによって、とにかくまずは、現場で働く女性の医療従事者が、ナプキンやタンポンといった生理用品を個人用保護備品のひとつとして入手できるようにしなくてはなりません。もうすでに状況が困難であるなか、彼女たちをこれ以上の不必要な不快感に直面させてはなりません。しかし、もっとも重要なのは、女性の医療従事者の声に耳を傾け、彼女たちのニーズを聴きとったうえで、それに即した対策を実施することです。彼女たちは、提供しうるすべてのサポート、なかでも不足しがちな医療備品のサポートをいますぐ受けるべき人々なのです。
2点目は、すべての家庭内暴力の被害者を対象としたホットラインとサービスの提供を「基本的なサービス」として位置づけ誰もが利用できるようにすること、さらに被害者の要請に沿ったかたちで法律を執行することです。女性サバイバーへのシェルターの提供を基本的サービスのリストに加えたケベック州とオンタリオ州の例を見習わなければなりません。親密なパートナーからの暴力によって死に至る女性の割合が高いことを踏まえ、今回のパンデミックが外出禁止期間中のさらなるトラウマ・外傷・死に結びついてしまうことのないようにしなければなりません。
3点目は、緊急経済支援や景気刺激策は、女性がおかれた特有の状況への理解と、ケア経済への正しい認識に支えられた社会的な保護措置を含むものでなければなりません。つまり、医療保険の給付金がそれをもっとも必要とする人々へと行き渡るようにするとともに、育児や介護のため出勤できない女性が有給休暇や病気休暇を確実に取得できるようにするということです。発展途上地域の女性労働力の大部分を占めるインフォーマル・セクターの従業員に対しては、給与保障のための特別な取り組みがなされなければなりません。インフォーマル・セクターの労働者を同定するのは困難であり、国ごとの個別的事情を考慮する必要がありますが、結果としての平等の実現に向けて、いまこそ動いてみる価値はあるでしょう。
第4に、指導的地位にある人々は、短期的・長期的な対策に関わる意思決定過程に、女性を加えなければなりません。ローカルレベルか地方自治体レベルか国政レベルかにかかわらず、意思決定に女性の声を加えれば好ましい成果を期待することができます。数多くの事例から、意見の多様性が最終的な決断をより良いものにするのは明らかです。それと同時に、政策立案・作成にかかわる人々は、女性団体の力を最大限に活用すべきです。女性団体にコンタクトをとり協力を求めることは、より力強い地域対応にもつながります。なぜなら、女性団体がもつ並外れたネットワークは、社会的距離を確保するよう呼びかけるメッセージを強く浸透させるために活用できるからです。エボラ出血熱への対応は女性団体の参画によって目覚ましいほどに進展したのですから、今回もその教訓を生かさない手はありません。
最後に、政策策定者たちは、一般の人々の家庭のなかで何が起きているかということに注意を払い、男女の平等なケア負担をサポートしなくてはなりません。これは、世界の多くの地域で世帯内に存在しているジェンダー役割の「ステレオタイプを問い直し、撤廃する(unstereotype)」ための、またとない機会です。各国政府、とりわけ男性首脳陣が実行に移すことのできる具体的なアクションのひとつは、私たちのHeforSheキャンペーンに賛同し、HeforShe@Homeの最新の情報に注意しておくことです。このキャンペーンで私たちは、男性や男の子に対して、家事を公平に分担し、女性が現状あまりにも多く抱えているケア負担を軽減するよう協力を呼びかけています。
以上のアクションは、いますぐに実行すべき最低限のものにすぎません。女性のニーズをしっかりと組み入れる(build in)ことは、私たちに「より良い復興build back better」[=社会的弱者に配慮した持続可能な地域づくりを目指す災害復興計画の理念――翻訳者註] を実現する機会を与えてくれることでしょう。
平等な世界の建設に向けて政策的アクションを実行することほど、私たち全人類への賛辞にふさわしいことがあるでしょうか?
翻訳:近藤凜太朗
原文はこちらから
“Women and COVID-19: Five things governments can do now”