【COVID-19とジェンダー】新型コロナウイルスと将来に関する「グローバルヘルスにおける女性」の声明
2020/08/11COVID-19とジェンダー翻訳記事
以下は、「グローバルヘルスにおける女性(Women in Global Health)」の声明の全訳です。
ジェンダーに対応する医療体制を再構築するために協調的でグローバルな行動を
これはグローバルヘルスにおける女性(Women in Global Health)事務局長Roopa Dhatt博士が国連女性機関(UN Women)および経済協力開発機構(OECD)が開催する 新型コロナウイルス感染症と未来に関する女性リーダーによる仮想円卓会議 (Women Leaders Virtual Roundtable on Covid-19 and the Future)で行った演説です。
まず、良い報告から始めたいと思います。新型コロナウイルス感染症をめぐり、医療に携わる女性たちが、女性連帯の精神でエビデンスとリソースを国境を越えて共有し、活発に組織している活気に満ちた地球規模の活動です。医療と社会福祉の現場は大半を女性が担っています。専門技術を発揮して活躍する女性のパワーがあふれている現場です。今こそ私たち女性がリーダーになるときだと思わせられます。
1 今がその時である
このパンデミックを戦争にたとえ、そこで戦うと考えれば、女性は最前線で戦う兵士といえます。全世界の看護師は90%が女性、武漢でも最前線で対応した医療従事者の90%が女性でした。多くの国で、新型コロナウイルス感染症患者の診療に最初に、そして唯一あたるのが女性の看護師と地域の医療ワーカーなのです。にもかかわらず、私たちが男女平等性をかかげ、女性のいない新型コロナウイルス感染症の意志決定機関に反対すると今はそのときではないと言われます。女性の専門能力と現場経験が常に軽視される医療界の構造こそがこのパンデミックの被害がこうまで甚大になった原因でしょう。
女性は医療従事者の70%を担っていますが、管理職に占める比率はわずか25%です。特にアフリカ、ラテンアメリカ、南アジアの女性はグローバル医療の意志決定の場への進出度が低いのです。女性こそが医療のエキスパートです。私たちが求めている解決策を女性たちは知っています。意思決定の場に進出すれば、女性の方が成果を上げてもいます。しかし、このことに世界は耳を傾けていません。
2 称賛は素晴らしいが、安全で正規の仕事のほうが素晴らしい
医療現場で働く女性はこのパンデミックにおけるヒロインとして称賛されており、私たちも彼女たちの類を見ないレジリエンスと献身に賞賛を惜しまないものです。しかし、男性によって男性のために築き上げられた医療体制は現場を女性医療従事者が必然的に担うことになること、そのような女性には男性とは違うニーズがあるのだということにいつまで経っても気づきませんでした。女性特有のニーズを把握した国際連合人口基金(UNFPA)から武漢の医療従事者へ生理用品と大人用のおむつが送られたことは本当に素晴らしいと思います。
新型コロナウイルス感染症に対応する女性医療従事者のニーズにはコミュニティを動き回り活動する際の安全確保、女性に適した個人用防具、家庭で子供たちの勉強をみたり、高齢の親戚の介護を行いながら、家事の負担を一身に背負った上で医療に従事している女性に長時間労働を求めない政策も必要になります。社会で問題が起こるたびに、緩衝材として様々な負担を背負ってきた女性たちですが、もうそれは終わりにしなければなりません。
このパンデミックを通じて、女性の仕事に対する評価が乏しいこと、女性、特に働かなければ甚大な経済的影響を受ける低社会経済層の女性たちに、超人であるかのような期待がかけられていることが明らかになりました。新型コロナウイルス感染症による致死率は男性の方が高いとはいえ、医療や介護を担う女性の感染率はより高いです。
私たちは今の女性医療従事者に対する称賛を、安全の確保された男性と同じ賃金の支払われる正規職の実現につなげなければなりません。
3 世界で最も貧しい女性たちが無賃労働で世界の医療を支えている
女性によって行われる医療と社会福祉分野の仕事の半分は無賃労働です。これは年1.3兆ドル(約137兆円)に及びます。パンデミックが発生するたびに、まずワクチン投与担当や地域の健康推進など極めて重要な役割を無賃金で担う女性たちが医療体制から離脱していき、彼女たちの献身の上に成り立つ砂上の楼閣ともいえるグローバル医療の安全がぼろぼろと崩れていきます。
女性が無賃金で行っている医療と社会福祉の仕事の価値を認め、それを正規労働の市場へと転換する必要があります。
4 私たちは事実が見えないままで動いている
新型コロナウイルス感染症に関し、男女別データをWHOに報告しているのは世界193か国中わずか25か国です。男女別やジェンダーに配慮したデータなしでは、このパンデミック下で私たちは事実が見えないまま取り組んでいて、将来の医療問題と闘うときに備えて教訓を記録することもないでしょう。新型コロナウイルス感染症による男性の死者数は女性の2倍であり、このことの原因を突き止める必要があります。同時にジェンダーによる暴力を受けた女性、母性、生殖医療サービスを受けることができなかったために出産時に亡くなった女性の死亡についても記録する必要があります。
私たちはこの問題を近年発生したエボラ出血熱の際にも目撃しており、同じ過ちを繰り返さずに済みます。
ジェンダーに対応した新型コロナウイルス感染症データの収集と解析を行い、女性と少女が被る間接的な被害がこれ以上増幅しないための対応に役立てることが必要です。
5 エコーチェンバー現象(注1)を壊そう
新型コロナウイルス感染症は通常の形での経済を世界規模で破壊し、私たちに未来を考え直す機会をもたらしました。新型コロナウイルス感染症をめぐって医療界の女性にはかつて例がないレベルの組織化が見られますが、私は、単に人数が増えただけで、相変わらず同じことを内輪で口にしているエコーチェンバーになっているのではないかと心配しています。新型コロナウイルス感染症に対する戦略や計画はジェンダーのデータがないまま次々出されており、私たちの声が必要としている人たちに届かないのです。
誰の許可も求める必要はありません。私が要求したことは持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals)として昨年国連ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (UHC) ハイレベル会合で合意され、2030年という期限も設定されています。
このパンデミックを乗り越えるためには、調整のとれた単一のグローバルな担い手が必要です。ジェンダーに対応できるよりよいグローバル医療を再構築するグローバルな取り組みをもリードすることのできる、指導層の少なくとも50%を女性が占め、協力、共感、一つの社会という思い、そして公平と人間の連帯に立脚した担い手が必要なのです。
私たちは全世界において、新型コロナウイルス感染症を含めてありとあらゆる医療の意思決定を行う機関に、男性と同等数の女性の起用を標準とすること求めます。グローバル規模から地域に至るまで、女性のためにというだけではなく、男性も含めてすべてに人々によりよい医療サービスを提供することが女性にとって可能になることを目指すものです。
(翻訳:山口奈々、翻訳チェック:黒江晶子)
注1:意見、思想、情報が価値観を共有するコミュニティ内で行き来することで、特定の意見、思想、情報だけが正しいかのように強化され、他の情報や意見がかき消されること
原文はこちらから
Women in Global Health Statement on Covid-19 and the Future