【こんな本を編集しました 001】花束書房・伊藤春奈さん『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト―独立運動を描きなおす』
2024/11/27
アジア女性資料センター新連載企画!
いつもご関心をお寄せいただきありがとうございます。この度、アジア女性資料センターではHP上の新連載コーナーとして「こんな本を 書きました/編集しました/読みました」シリーズを開始します。初回の今回は、今年9月に出版された話題書『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト―独立運動を描きなおす』(花束書房)を編集した花束書房・伊藤春奈さんに、本書の魅力を力強く語っていただきました。
「敬意」をつなぐ―100年前から足元の現在まで―
今年9月、『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト―独立運動を描きなおす』(尹錫男:絵、金伊京:著、宋連玉・金美恵:訳、花束書房)を出版した。韓国フェミニズムアートの第一人者である尹錫男(ユン・ソンナム)さんと、作家の金伊京(キム・イギョン)さんが組んで生まれた本だ。帝国日本の植民地支配と闘った14人の朝鮮女性を、肖像画とともに、一人称、三人称、インタビュー形式、ドキュメンタリー、手紙など、14人それぞれに異なる叙述方式で鮮やかに描きだしている。
ふたりの作家の熱意と敬意ゆえか、絵も文章もフェミニズムに満ちているのがうれしい。運動内のセクシズムやメディアによる揶揄や蔑視、家父長からの重圧など、女性たちが怒りを燃やし、闘う対象はいまと変わらない。何人かは、決意とともに名前を自ら名乗り直しているのもフェミニズム的だ。意志をたたえたまなざしに、自由をつかもうとするような大きな手、自ら選んだ装いにあゆみ、そして刻みつけた言葉――読むほどに、14人それぞれが心を揺さぶってくる。
翻訳者の宋連玉さん、金美恵さんと本書を作りながら私がつねに考えていたのは、「相手への敬意」である。そこには、「相手に近づきたい」「理解したい」「痛みを知りたい」といった願いが含まれる。帝国日本の暴力や家父長の支配のもと、家父長制と植民地支配の両方と闘わなければならなかった14人は、多くが植民地下で拷問の後遺症などで病死し、あるいは解放直後に亡くなっている。生き残った数人も家族や仲間と離散するなど、平穏な余生を送ることはかなわなかった。いまに続く困難で複雑な現代史を思いながら、14人それぞれの生をもっともよく表せる文体を模索して、さまざまな叙述が採られたのだろうと考えるようになった。と同時に、早くから帝国日本との戦いを強いられた朝鮮人の長きにわたる抵抗運動、内部での軋轢も経たフェミニズムの底力に、何度も圧倒された。民衆の手で社会を変えていく、民主主義を獲得していくとはこういうことなのかと胸が熱くなり、さらに敬意が募る。その繰り返しで本ができあがったように思う。
本書のプロジェクトについて解説する「まえがき」、そこに呼応するような日本版の「翻訳者あとがき」からも、「相手への敬意」は響いてくる。とくにあとがきでは、邦訳出版の経緯や日本社会で世に出すことの意味だけでなく、訳者おふたりそれぞれの個人史と本編とのつながりが示される意味は大きい。個人の生に、南北分断や現代史、冷戦の残滓が否応なく絡んでくること、100年前の朝鮮女性たちと地続きの歴史をいまも生きていること。日本版は訳者あとがきまで含めて「完成」するのであり、本書が読者とは切り離された「かつてあった歴史」の本ではないことが、おわかりいただけると思う。
刊行まもない時期から、とりわけウクライナやパレスチナのために運動する人たち、フェミニストにいち早く反応していただき、熱い支持を受けていることに訳者ともども喜んでいる。戦争と虐殺と分断の時代にあって、本書が日本社会の惨状を変えるささやかな動き――卵で岩を穿つように――となれば幸いです。
『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト―独立運動を描きなおす』
独立運動を闘った多彩な朝鮮女性を、韓国フェミニズムアートの第一人者・尹錫男(ユン・ソンナム)と作家・金伊京(キム・イギョン)が、圧倒的な読み応えでよみがえらせた歴史ノンフィクション。 信念を曲げず、真の自由を切望した女性たちの言葉とあゆみは、何度も運動としてよみがえり、社会を変えてきました。 また、いまの私たちと地続きの性差別と闘った姿にもぜひ注目を。韓国フェミニズムのルーツともいえる歴史を知って、植民地主義とフェミニズムの関係を考えてみませんか。
著者:尹錫男(画),金伊京(著),宋連玉(訳),金美恵(訳)
出版:花束書房
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