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「『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』にだまされたくない人のためのおしゃべりカフェ」報告

2016/06/15

2016年6月6日、「『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』にだまされたくない人のためのおしゃべりカフェ」を開催しました。(イベントの詳細はこちら

改憲派が女性を対象にした勉強会で使用しているブックレット『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(明成社)について、この本の内容と出版された意図や背景に詳しい山口智美さん(モンタナ州立大学)、能川元一さん(大学非常勤講師)、打越さく良さん(弁護士、夫婦別姓訴訟弁護団事務局長)に、ジェンダー平等の視点から、とくに「家族」にかかわる憲法24条を中心にお話しいただきました。当日の様子をご報告します。

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冒頭では、DVD「世界は変わった 日本の憲法は?~憲法改正の国民的議論を~」(監修:櫻井よしこ、百地章、ナレーション:津川雅彦、制作総指揮:百田尚樹)の一部を上映しました。これは日本会議系団体である「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(共同代表:櫻井よしこ、田久保忠衛、三好達)が制作したDVDです。「上映協力金」を支払えば、憲法改正について語り合うために各地で上映をして良いということだったので、この日は「ぜひ上映に協力して語り合いたい」と、山口さんからご紹介いただきました。

「今、日本は戦後70年、最大の危機を迎えています」とはじまるこのDVDですが、「日米安保条約の下のみせかけだけの平和の夢」「中国は覇権主義をむき出しにしている」「北朝鮮は日本をいつでも攻撃できるミサイル基地を国内のいたるところにつくっている」「戦後最大の危機に日本国憲法は日本を守るどころか、逆に日本を滅ぼしかねない危険までもっている」「日本を狙う国にとって都合のいい憲法」というように、日本の「危機」を強調し、改憲が必要だと訴える内容です。

DVDの「家族」の章では、百地章さんが登場し、アニメ「サザエさん」について、「サザエさん一家の3世代7人の大家族が昔の日本ではどこでも見られた風景で、サザエさん一家の日常生活を見ると誰もがほっとするのが人気の理由だ」と話していました。「人間は一人では生きていない」「災害では心細い思いをする」というナレーションのあとに「家族の絆が大事」と続きます。

全体としては、GHQに日本国憲法を押し付けられたから、日本国民独自の憲法が必要と訴える内容。最後は着物姿の櫻井よしこさんが登場して、日本国憲法を「借り物の衣装」と呼び、「みなさんと一緒に本当の日本の姿を取り戻したい」と呼びかけていました。

以下、お話のまとめです。

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山口智美さん

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このDVDと『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』はかなり共通する内容。違いはDVDでは、はじめに憲法9条、そのあと緊急事態条項について解説しているところ。10分のダイジェスト版では「家族」について取り上げていないが、『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』では、最初に緊急事態条項、その次に「家族」(24条)が出てきて、最後に9条となる。DVDのほうは支持者向けに作られているという印象を持った。

『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』の背景と、実際にどのようにこの本が運動に使われているか簡単に解説したい。

この本を出しているのは日本会議に関する書籍を多く出している出版社。この本の監修を務めたのは百地章さんだが、書いたのは「編集協力」として掲載されている女性団体の女性たちだそうだ。

『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』本の出版社の社員でイラストも担当した諌山仁美さんは「ごく普通の一般人とりわけ女性にはまだまだ憲法を改正する意味が伝わっていないのが現状です」と言い、だからこの本をつくったと話している。一人で数十冊、団体で数千冊を購入しているケースもあるそうで、配布したり、勉強会で使用しているようだ。

なぜ女性をターゲットにしているのか。改憲には女性票が必要なことは明らか。しかし、憲法は女性たちには難しいというイメージがある。だから女性に「わかりやすく」教えようと考えているから。この本は、このカフェに来れば男性のマスターがわかりやすく憲法について教えてくれるという、女性を馬鹿にした設定。日本会議や、日本女性の会は女性を対象に憲法に関する学習会を全国各地で開いている。「日本女性の会」は日本会議の女性部で、男女共同参画へのバックラッシュ最盛期の2001年につくられた団体。

こうした団体が『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』 を、憲法勉強会のテキストとして使っている。熊本大学の高原朗子さん(教育心理学)という教授がいるが、この女性が全国各地を回って100回以上の改憲についての講演をしている。先日、和歌山で行った集会のタイトルは「憲法ってなに? 平和について考えよう」という、憲法改悪に反対する人たちがつけてもおかしくないようなタイトル。日本会議の支持者ではない層の女性たちを呼び込もうとしていることがわかる。日本会議の機関紙にも「憲法おしゃべりカフェ」に関するコーナーが設けられるなど、女性をターゲットにした運動を積極的に展開している。

改憲派にとっての家族というものは「縦の関係」に力を入れているということが特徴だと思う。自民党改憲草案にも反映されている。草案24条の3項には、縦の関係を想起させる言葉がたくさん入っている。

能川元一さん

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憲法24条関連を見てみたい。先ほどのDVDでも「家族保護条項」について扱っていた。国連の人権規約や他国の憲法を引き合いに出して、日本の憲法24条には「家族の保護をうたった条項はない」として問題にしている。

「家族の保護」と聞くと悪いことではないような気がするが、具体的に「家族保護条項」を盛り込んだ場合に国は何をするのかを考える必要がある。「家族の保護を義務付ける」という条項が入れば、国家が家族を保護する義務を負うことになる。例えば、老老介護で共倒れになろうとしている家庭や、障害をもった子どもを育てながら年老いてきて自分の死後のことを心配している親、またはシングルマザーの家庭などのために何かしてくれるだろうと考えるだろう。しかし、この本をつくった人たちには、そのような家族のために何かしようとする視点はない。なぜそういえるのか。この本についていた「特別マンガ付録」では、他国の家族保護条項を紹介した後、おじいさんが孫を抱きあげて「国が家族を保護する姿勢を打ち出してくれれば安心」と言う場面がある。しかし、その2つ後のコマでおじいさんは「いくら世の中が豊かで便利になろうと、やはり最後に頼れるのは『家族の絆』じゃ!」と言う。国が家族を保護してくれれば安心といいながら、頼れるのは「家族の絆」というのはシナリオとして成立していない。 どのようなカラクリなのか。

日本会議系のイデオローグの一人である高橋史朗さんの著作で「家族保護条項」に関連する記述を紹介したい。家族社会学の研究者である加藤彰彦さん(明治大学)は、政府が進める「一億総活躍」政策に関する意見聴取会などに参加して、少子化克服のために三世帯住宅を推進することを提言している研究者だが、彼は憲法24条の改憲試案として「家族は次世代育成のための自律的な基礎単位として、社会的、法的及び経済的保護を受ける権利を有する」と提言している。高橋史郎さんはこの「自律的」という部分について「『自律』という『自助』」という驚くべき解釈を提示している。しかし、そもそも「自律」としての「自助」というのは意味が通らないもの。つまり、彼はautonomyとしての「自律」をindependenceという意味の「自立」とすり替えているのではないか。そのように読むと意味が通る。しかし、音が同じだからといって意味をすり替えてしまうのは大変な問題だ。しかし、「自立」なくして「自律」なしのような発想は日本の保守派のなかでは特異なものではないと思う。

具体例として、兵庫県小野市では生活保護受給者がパチンコをやっているところを見つけたら市民に通報する義務を課す条例ができたことがある。大分県の別府市と中津市では、生活保護受給者がパチンコをしていたら保護を減額するという行政処分を行っていた。大阪市では生活保護の一部をプリペイドカードで支給するというモデル事業が行なわれた。これらは、自分の稼ぎで暮らしていない者は金の使い方に口を出されても文句を言えないという発想だ。つまり、「自立」はないから「自律」は認めないという発想。

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このブックレットの13条では、かつて子ども権利条約に関して国連でスピーチを行った高校生が、国連の委員にたしなめられたというエピソードを紹介している。これは1998年に確認されているデマだ。しかしこの本では女性たちが「自分で稼いで食べているわけでもない子どもに下手に権利なんて覚えさせてはだめよ」と言う。つまり自分で稼いでいない「自立」ないものには「自律」を認めないという発想だ。本来概念として「自立」と「自律」は全く異なるものなのに、あたかも「自立」が「自律」の前提であるかのような発想は相当広くこの社会で共有されているのではないか。「自律」という聞こえの良い言葉を使って憲法24条が変えられてしまった場合、懸念するべきなのは社会保障の支出を減らしたいという政府の意向と結果的に合致するということ。根底にあるイデオロギーは違っていても結果としては一緒になってしまう。

憲法24条が変われば、家庭でシャドーワークを担っている女性たちにとっては負担が更に増えるということになる。また、24条だけではなく25条の生存権までも影響をしてくる可能性がある。

他にも、このブックレットでは「今の日本はシングルマザーなど片親世帯への支援が家族をもっている人たちへの支援に比べて多いですよね」と出てくる。事実ではないし、シングルマザーの世帯は「家族をもっている人」には入っていない。差別的な表現もかなり出てくる。

打越さく良さん

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2015年12月、最高裁大法廷では夫婦別姓訴訟について驚きの判決が出た。それでも15人中5人の裁判官(うち女性裁判官3人全員)が夫婦同姓しか認めないという民法750条は憲法24条に違反すると判断した。これまで一部の研究者しか憲法24条について注目してこなかった。護憲運動でも、9条や緊急事態条項に関心が集まっているのではないか。改憲側がかなり熱意を持って変えようとしている24条について、関心が薄いというのは悲しい。

夫婦別姓訴訟では24条について裁判の規範性があり、立法裁量を画するものであるということが認められた。これからもっと研究者のみなさんに議論を深めてもらいたい。

24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」となっているが、自民党草案では、2項に下がった上、「両性の合意のみ」の「のみ」という部分が消えている。当事者の合意だけでは婚姻できず、なにか別の制限が追加されるということだろうか。この1項があることで、婚姻の自由や「家制度」の廃止を導くことができる。2項は国家に対する立法義務や立法原則として個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいて婚姻槍婚その他家族に関する法律が制定されることを定めている。

個人の尊重については13条、法の下の平等については14条がすでにあるが、24条は外部から見えにくい家族内での個人の尊厳と両性の本質的平等を掲げたという大きな意味がある。14条は公的領域における性差別を禁止することだが、24条は外部から見えない私的領域における平等を掲げた。これにより、家族の構成員、とくに女性に対して抑圧的な装置であった「家」を廃止できた。

自民党草案を支持する改憲派は、「家族の絆が薄くなっている」というが、虐待や暴力のケースを扱っている弁護士としては、むしろ家族内における平等が実現されておらず個人が尊重されていないことが原因となっていると思う。

家族で助け合うことが国民の義務とされてしまった場合、支配や暴力、不平等は解消されることなく、反対にそれらを維持する方向に進むことになるという危機感がある。すでに民法752条で規定されている扶養義務を憲法に盛り込むとしたら、社会保障を後退させることになる。「自己責任」という言葉が安易に使われるような社会では、こうした問題だけが助長されていくだろう。「輝く女性」などという政策を推進しているが、こうなってくると「ますます輝けない」と思わざるを得ない。

このブックレットには婚外子に対する露骨な差別がある。婚外子への相続に関する法律については「本妻の子」「愛人の子」などと時代錯誤の言葉を使って批判する。「不倫」相手の子どもが財産を要求してきたら「そもそも結婚している意味がなくなっちゃうじゃないの」という台詞があるが、よく意味がわからない。なぜ登場人物すべてが婚姻関係にある側に同一化しているのかも疑問。多様な家族を認めるのではなく「こういう家族でなければ差別してやれ!」という意欲があるように受け取れてしまう内容だ。

また、この本ではスウェーデンのことを非常に強く批判していることも気になった。スウェーデン大使館にこれでいいのか聞きたいほど。「老人ホームの職員が老人に暴行したりする国」と書いてあるのが、日本でも似たような事件があったのではなかったか。「スウェーデンだけが自由に選択できる夫婦別姓を世界で唯一採用している国」とも書いてあるが、むしろ、法律で夫婦同姓しか認めない国は唯一日本だけであることを政府も認めている。疑問に思う点が多すぎる。

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後半は会場との意見交換でした。「常識的に考えれば間違っているとわかることも、情報に混線があれば、そうなのかも!と納得してしまう人がいることが不安」「介護の社会化のためにできた介護保険だが、いまではすでに地域のボランティア的なつながりを頼りにしていたりする。24条が変わっていなくてもすでに家族や地域に投げ返す動きはあると思う」「女性たちが主体となっているように見えるが本当に女性の手によるものなのか疑問がある」といった発言を会場からいただきました。

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また、日本の右派の世界観は「GHQによる戦後改革が諸悪の根源」という発想で全てつながっているという解説の際に、最近の右派論壇がしきりに言っている「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(英語:War Guilt Information Program、略称:WGIP)」についても話題になりました。戦後、日本人に罪責感を植えつけるためのGHQによる洗脳プログラムと右派が呼ぶこのWGIPですが、参加者のなかにもとても詳しい人がいて、私たちの想像を遥かに超える内容に衝撃を受けたのでした。

ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

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