イベント

自分ごとの「入管問題」 ── 2/11(日)「フェミニズム×クィア視点から入管体制を考えるワークショップ」から

2024/05/29

 2024年6月10日より、難民審査中であっても強制送還が可能になる措置が始まってしまう。「改正出入国管理法※1」を、もうこれ以上人権を侵害する制度にしないために、我々は何をしていくべきだろうか。

※1 「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」の一部を改正する法律

(本記事は、アジア女性資料センターが2024年2月11日に開催したイベントの報告記事です)

「フェミニズム×クィア視点から入管体制を考える ワークショップ」のポスター。フェンスやロープをモチーフにして、色合いの爽やかなデザイン。 2024.2.11 SUN 13:30~16:50 お申し込み→https://301.run/r/o1s1113 PROGRAM 自己紹介、ゲストから話題提供、みんなでディスカッション(予定)。 GUEST 髙谷幸さん(社会学者)、宮越里子さん(デザイナー)、仮放免者のAさん ※電話出演 主催 アジア女性資料センター 場所 東京ウィメンズプラザ視聴覚室B・C(渋谷駅から徒歩12分・地下鉄表参道駅徒歩7分) 参加費 無料(カンパ歓迎) 定員 30人(知識や運動経験は問いませんが、ディスカッションに積極的に参加できる方) 問い合わせ アジア女性資料センター(ajwrc@ajwrc.org) ※回答にお時間をいただく場合がありますので余裕をもってご連絡ください。 ※情報保障について、可能な範囲で検討しますので事前にご相談ください。

 

◆開催の経緯

 アジア女性資料センター(AJWRC)では、2024年2月11日、『フェミニズム×クィア視点から入管体制を考える ワークショップ』と題し、入管問題について会員の内外に呼びかけ、車座で話し合う場を作った。

 これまで日本政府が容認し続けてきた「排除のための難民審査」や、入管収容施設での虐待、そして外国人に対する恣意的な政策について、見過ごすことはできない──特に移民女性や性的マイノリティに対する重大な権利侵害については、耐えがたいものがある。

 日本社会におけるジェンダー/セクシュアリティ/人種にもとづく抑圧は、きわめて複雑に交差している。しかしその複雑性は、はたして充分に理解され、共有されていると言えるのか。新しい法律・制度が施行されゆく今こそ、入管体制について考え、行動するフェミニズムが必要なのだ。

 この問題意識から、AJWRCでは、まずは疑問や課題の共有から始めよう、そして座学スタイルではなく、参加者ひとりひとりに語ってもらえるよう……という意図を込めて「ワークショップ」という言葉を掲げた。

 

◆ゲストスピーカーを交えて、課題の共有

 その結果、事前申し込みも多くいただき、当日は会場20名・オンライン19名という人数※2が集まり、活発な議論が交わされた。

※2 ボランティアを名乗り出てくださった方々のおかげで、zoomでも配信・ディスカッションするハイブリッド開催の機会に恵まれた。会場のWi-Fi不備や音響設備の準備不足などで、現地参加・オンライン参加の方々共にストレスを感じるシーンも多かったかもしれないが、参加してくださった皆様には心より御礼をお伝えしたい。

会場の様子。長机に左から宮越里子さん、髙谷幸さん、アジア女性資料センター理事の本山央子が座っている。

会場の様子。左から宮越里子さん、髙谷幸さん、アジア女性資料センター理事の本山央子。

 

 ワークショップでお呼びしたゲストは、社会学者の髙谷幸さん、デザイナーでアクティヴィストの宮越里子さんだ。また髙谷さんを通じて、仮放免者であるAmbey Limanoさん、そしてAmbeyさんのパートナーである林昌孝さんとビデオ通話でも繋がった。

 Ambeyさんは、フィリピン人のトランスジェンダー女性。1990年初頭に来日し、興行ビザで働いていた。昌孝さんと出会い日本で生活の基盤を築くも、日本の現行の婚姻制度は戸籍上の性別が同じ者同士の婚姻を認めていない。そのためAmbeyさんは日本人配偶者がいる外国人としてはみなされず、在留資格を失うことになった。現在は仮放免の状態のため、行動範囲の制限があり、就労禁止の状態だ。毎月1回、出入国在留管理局へ出向き、仮放免の再申請を続けるという状況がもう5年も続いている。

 髙谷さんからは、日本の入国管理体制の概要、そして在留資格制度というものがいかにジェンダー・セクシュアリティと結びついて管理される制度であるのかを解説していただいた。地方都市で仮放免者として生きるAmbeyさんと、パートナー・昌孝さんの肉声は、日本国内で共に生きている我々ひとりひとりに、重い課題を再度しめしてくださった。

アンビーさんとパートナーの昌孝さんのお話を、リモート会議ツールで聞く様子。理事の本山がノートパソコンにマイクを当てている。

リモートで登壇してくださったAmbeyさんとパートナーの昌孝さん。※プライバシー保護のためぼかしを入れいています

 

 宮越さんからは、フェミニズム視点からいかにして入管体制を見直すべきなのか、理論と実践の必要性について語っていただいた。国家権力そのものを見据え、特権を可視化し、差別の重層性を見出すためには、どのような思考の枠組みが必要であるのか。特権階級の優位性を温存・強化しがちなホワイト・フェミニズムや、国家覇権や警察権力の増強と結びつくカーセラル・フェミニズムの問題点を指摘しながら、運動内部でも起こりがちな差別の課題などを提示していただいた。

 それぞれにお伝えいただいたことの詳細は、このあとの記事(6月以降、順次公開予定)にてひきつづきお届けしたい。

 

◆活発なディスカッション

 ゲストのお話のあと、現地・オンライン内でそれぞれ2グループずつに分かれ、ワークショップで提示された問題点や自分たちが感じたことについて話し合いが行われた。

 入国管理制度を巡る問題は、結婚制度や家父長制度、戸籍、異性愛主義、植民地主義、資本主義、ケア労働、生殖のコントロール……と、日本に住む自分たち自身の問題と直結している。参加者ひとりひとりの関心と問題意識から、多岐にわたる意見・感想がもたらされた。

 たとえば「性愛を制度化し、国家が管理するしくみにあまりにも権力が集中しすぎている」という感想。また「国家にたよるフェミニズム/フェミニスト」への批判点や反省点、その打開策についての意見。SNS空間において加熱する扇動・デマの問題や、逆にSNSを通じて広がる新しいアクティビズムへの取り組みなど。また平等を目指すための社会運動や活動における「成果主義」や「能力主義」の問題などにも、気づきや意見が及んだ。数々の問題点をどのように解体していけばよいのか、日常レベルでできる取組はなにかなど、ひとりひとりが自分自身の立場から言葉を紡いだ。

 

◆さいごに

 今、ここに空気となって存在している権力への抵抗は、複雑で難しい。自分たちを形づくってすらいる差別的な制度は、言葉を獲得しなければ、正体をとらえることもできない。だからこそ、「フェミニズム」「クィア視点」「入管体制」、この3つをつなぐ視座が必要なのだ。国家権力をあぶりだし、問題を可視化するために、何が必要か。ワークショップの場は、現状を変えていくための意思を持つ人々で満ちていた。

 

文・赤谷まりえ(アジア女性資料センター事務局)

 

★本記事で紹介のあった髙谷幸さん、宮越里子さんのご発表、またAmbeyさんの最新のインタビュー記事は、アジア女性資料センターのホームページ上で6月以降に順次公開予定です。公開されましたらこちらのページでもお知らせいたします!

DOCUMENTS