「拷問等禁止委員会の最終見解に対する日本政府コメント」に対するアジア女性資料センターの見解
2008/07/23 日本政府は5月末、2007年5月に第38回国連拷問等禁止委員会(CAT)が公表した初の日本政府報告審査に関する最終見解のうち、特に1年以内に回答情報を求められていたパラ14、15、16、24の勧告について、「コメント」を公表しました(日本語仮訳)。以下、特にCAT最終見解パラ24(性暴力およびジェンダーに基づく暴力)への「コメント」に焦点をあてながら、政府コメントに対するアジア女性資料センターの見解を述べます。
アジア女性資料センターは、女性に対するあらゆる人権侵害の廃絶を求める立場から、CATの最終見解を歓迎し、日本政府に誠実なフォローアップを求めてきました。2007年10月4日には、30団体・112人の署名を添えて、市民社会との十分な協議のもとにフォローアップ計画を策定すること、また1年以内の情報送付要請について具体的計画を示すよう求める要請書を提出しています。にもかかわらず今日まで、政府「コメント」および他の勧告に対するフォローアップについて、政府からの説明やNGOからの意見聴取の機会が一切もたれていないことに、たいへん失望しています。
また「コメント」の出し方だけでなく内容についても失望を禁じえません。CATは審査に際して、国内法体系の説明にとどまらず、実質的な実態報告を行うよう日本政府に求めましたが、政府はこの「コメント」でも従来の見解を繰り返して反論するばかりで、CATの指摘を真摯に受け止めようとする姿勢を示していません。このような態度は、市民社会および国際機関との対話のもとに、人権改善にとりくんでいくと言明した日本政府の誠意に疑いを招くものです。
性暴力およびジェンダーに基づく暴力(CAT最終見解パラグラフ24)に対する政府コメントについて(政府コメントのパラ19-23):
このパラグラフにおいてCATは、特に日本軍「慰安婦」問題を念頭におきながら、性暴力被害者に対する不十分な救済措置について指摘したうえで、さらなる条約違反を防止するために、性暴力およびジェンダーに基づく暴力の根本にある差別を是正する教育、被害者への救済措置、不処罰の防止を実施するように勧告しました。ところが政府コメントは、CATのコメントを非常に狭くとらえ、ただ日本軍性奴隷制問題に対する批難としてのみ受け止めてしまっています。パラ19~22は「慰安婦」問題に関する反論にあてられ、パラ23でようやく教育について述べていますが、現在起きている性暴力・ジェンダー暴力の被害救済や不処罰の防止については、まったく言及がありません。このような狭い受け止め方しかできないこと自体、いかに日本政府の側に、性暴力およびジェンダー暴力全般に関する認識が欠如しているかを示しています。
さらに、パラ19から22では、「本条約は批准時よりさかのぼって適用されない」「アジア女性基金の事業により解決済み」との従来の主張をくりかえしていますが、委員会はすでにこうした政府主張を検討したうえで、拷問行為の調査・訴追・処罰に時効は適用されるべきではなく、また、アジア女性基金の事業では救済は不十分であるという見解を示しているのであり、このような反論のしかたは、人権状況の改善に向けた建設的な対話を志向するものとはいえません。パラ23も、特に性暴力やジェンダー暴力を防ぐための教育について情報が求められているにもかかわらず、一般的な公務員教育について説明しており、アジア女性基金のすでに終了した事業説明に至ってはまったく的外れです。
要約すれば、政府コメントは、指摘された条約違反状態を是正し、ジェンダー暴力・性暴力を防止するためのよりよい措置をとることを目的とした情報提供の目的に適ったものではありません。日本政府が審査後1年もかけて、いかなる改善も検討しないことを前提とした反論を再び行ったことに、深い失望を感じます。むしろ審査後すぐに、委員会の勧告に沿った条約違反状態の是正に向けてNGOとの協議を開始していた方が、日本にとってはより実り多い1年になったでしょう。私たちは特に、2007年11月に、CATが公表した条約2条の実施に関する一般的意見(CAT/C/GC/2/CPR.1/Rev.4)に、政府の注意をうながしたいと思います。この文書で、CATは、ジェンダーその他の差別に基づく理由による拷問により適切に対応するために、暴力にさらされやすい社会集団に対する暴力により明確に焦点をあて、ジェンダー分析にもとづいた情報を提供するよう、締約国に要請しました。このような実施基準に日本政府が適切に対応するためには、国際機関および市民社会との対話と協力は不可欠です。日本政府に対し、CAT最終見解を真摯に受け止め、今すぐに条約違反の是正のためのとりくみを開始するよう、あらためて要請します。
2008年7月23日
アジア女性資料センター
☆拷問等禁止委員会(CAT)最終見解の日本語暫定訳はこちらから。
※暫定訳は、Advanced Unedited Versionをもとにしていますが、その後確定された最終版の最終見解ではパラグラフ番号がずれています。未確定版では「ジェンダーに基づく暴力および人身売買」に関する内容がパラ24でしたが、最終版では、補償およびリハビリテーションに関して、特に性暴力・ジェンダー暴力被害を扱ったパラ23の番号がずれて、パラ24となっています。
その他拷問等禁止委員会の日本審査に関する情報は、こちらのページから。